謎の青年 2



 リュナの話によると、そのクラストという青年が受けているのは、さる資産家の用心棒らしい。そこに行けば会えると楽観視していたセラだが、その後宿で一泊して朝早くかの豪邸に向かってみれば、城と見紛うような広大な敷地と厳重な警備に唖然とすることになった。
「ほええーーー。大きいおうちですねー」
 リュナが、屋敷を見上げてぽかんと口を開ける。
「王都の貴族並みですね」
 ライゼスの呟きに同調するように頷きながら、セラは門の前に立つ警備の者に話しかけた。門の左端と右端に一人ずつ、まるで城の門番宜しく立っている。私兵だろうに、纏っているのは同じ制服だった。
「少しいいか?」
 そのどちらにともなく、セラが声を上げる。怪訝な目を向けられたが、物怖じせずセラは続けた。
「ここで雇われている、クラストという人物に会いたい」
「ここの使用人なんて、いちいち把握してないよ」
 セラの言葉に応じて、否定的な返事が返ってくる。声を上げたのは、右側の門番だった。衛兵のような、ぴしっとした征服を着こんではいるが、やはり雇われ兵なのだろう。こちらが客でないのもあるだろうが、だるそうな態度を隠しもしない。
「ではここの主人に会わせてもらえないか」
「いきなり来てそう言われてもね……」
 気のない返事に、何と言ったものかと悩んでいると、リュナがちょこちょことその前に歩んできた。そして、懐から紙束を取り出し、門番に示す。
「依頼を受けてきました。賞金稼ぎのリュナです」
 何を言われたのか解らなかったのだろう。だが、彼女が発した言葉が徐々に彼らに浸透していくにつれ、彼らの口はおかしそうに釣り上がっていった。そして、最後には声に出して、二人の門番は笑った。
「い、依頼だって? お嬢ちゃんが? お使いじゃなくて?」
「ええ、依頼です。これあたしのライセンス。Aランクです。それでも信じられないなら、これギルドからの紹介状」
 言葉に合わせて、チャキチャキと紙束をしまい、ライセンスカードを出して、またそれをしまい、そして最後に封書を取り出す。ギルドの証文で封印されたそれを見せられ、門番は顔を見合わせた。そして、左の方がそれを受取る。しばし封書をためつすがめつしていたが、ふう、と息を吐くと、彼はそれを持って屋敷の中に消えた。とくに誰も言葉を吐くことなくしばし時だけが過ぎ、やがて門番が手ぶらで戻って来る。そして門を開けたまま元の位置に立ち、中を指し示した。
「入りな」
「ありがとう」
 まだ疑わしい顔をしている門番に、にこっと笑いかけながら、リュナが最初に門を通る。セラ、ライゼス、ティルの順でその後に続き屋敷に足を踏み入れると、白のシャツに黒いベスト、スラックスと、カチリとした格好をした男性が迎え出た。
「こちらへどうぞ。旦那さまが直接お会いになられるそうです」
 先に立って歩く彼に、そのまま一行が続く。広間を抜けて奥の一室の扉を開け放つと、彼は進路を譲った。
「ほう、これはまた――」
 リュナが一歩入るなり、中にいた初老の男性が歓声を上げる。それに驚いて、リュナは足を止めた。
「ああ、不躾に済まない。私がここの主、ドルフ・エズワースだ。――使用人のことは、普段はあれに任せきりだが、少女の賞金稼ぎと聞いて興味が沸いてね。直に見たくなった」
 この部屋まで案内してきた男を指して、初老の男性――エズワースが声を上げる。立ち止まったリュナと、その後ろに続くセラ達に座るよう促しながら、彼もまた腰をおろした。
「しかもAランクで、ギルドが紹介状を書くほどときた。実際に見て驚いたよ。私の娘と同じくらいじゃないか。だが腕が立つなら、娘の身辺警護にこれ以上の適役はいない」
 握手を求められ、慌ててリュナは腰を浮かすと、右手を差し出した。
「リュナです、ミスター・エズワース。宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく頼むよ。少し我儘な娘だが」
 手を離すと、エズワースはセラ達の方へ視線を移した。
「君達も賞金稼ぎか?」
「いえ、そうではないのですが。私達も、こちらで雇って頂きたくて」
 そうセラが申し出るも、エズワースは困ったように顎下にたくわえた髭を撫でた。
「申し訳ないが、使用人の数がいささか増え過ぎてな……ギルドへの依頼も既に打ち切ったのだ。今のような事情があるので、リュナ君は雇おうと思ったのだが」
「――でしたら」
 難色を示すエズワースに、セラは逆に身を乗り出した。鋭い瞳が不敵に瞬く。
「何人でも構いません。この屋敷の警護をしている者と私を戦わせていただけませんか。その者全ての分、私一人で補ってみせましょう」
 誰も思いもかけなかったことをセラが自信満々にのたまい、ライゼスとティルが唖然とする。リュナは例によってきらきらと目を輝かせてセラを見つめた。そしてエズワースは、セラの闘志にのまれたように一瞬絶句したが、次の瞬間、弾かれたように笑った。
「――面白い! 解った。今手が空いているものを集められるだけ集めるぞ。君より体の大きい者も歴戦の戦士もうちにはいる。それでも構わないのか?」
 エズワースが脅すような口調でセラの目を覗きこむ。だが、セラは涼しい笑みを浮かべて頷いた。それを心底面白そうに見ながら差し出されたエズワースの手をセラが握り返す。
「セリエス・ファーストです。必ず満足させて見せましょう」