透き通るような肌は、白いというより色がない。澄んだ碧眼は、宝石というよりガラス玉だ。美しかった銀髪は、肩に届かないほど短くなってしまったが、それでも美しさに変わりはなかった。しかしどこか空虚な美しさだ。表情も生気もない無機質な美貌はまるで作りもののよう。
「ティル……?」
それを肯定するように、呼んでも彼は答えなかった。そんなことなど、これまで一度もなかったのに。
「じゃあセリエラ。ちゃんと大人しく待っててね。まあ、キミは彼を置いて逃げたりはしないよね? そうは思うけど……ティル、彼女をこの部屋から出さないように」
クラストの声は空の上の方で響いているようで、頭には入らなかった。それでも、扉が閉まる音ではっとする。ティルはもうこちらを向いていなかったが、セラはその腕を掴んだ。
「ティル、何があった? 怪我はないか?」
クラストが去って二人きりになっても、ティルは何も答えない。聞こえてすらいないようだった。
「どうして、何も応えてくれないんだ……!」
堪え切れず叫ぶ。叫んでも、ティルは応えるどころかこちらを見もしない。小さく毒づくと、セラは部屋を出ようと扉へ向った。ティルに何をしたのかと、クラストを呼びとめて詰問するつもりだったのだが、それは叶わなかった。
「ティル……」
目の前で起こったことが信じられず、セラが立ちつくす。ティルが刀を抜き、それをこちらに向けていた。
(これじゃ、まるで……)
まるで、クラストの人形ではないか。
外に出さないように、とティルに言いつけていたクラストの姿が脳裏によみがえって、セラは強く唇をかみしめた。ティルがエズワース邸を出たあの夜、確実に何かがあったのだろう。いや、何かという抽象的な言葉にせずとも、想像はついた。きっとクラストが、精神魔法か何かでティルを操っているに違いない。そう思い、もう一度口を開く。
「ティル、操られているのか? 本当に私がわからないのか……?」
「……退け」
そうであるなら、もしかしたら何かのきっかけで元に戻るかもしれない。そう思い、セラは尚も語りかけた。だがティルが唇を動かし、喜んだのもつかの間――返って来たのは冷たい声だけだった。
「ここから出ることは許さない」
それは紛れもなくティルの声だった。あの日哀しい歌を奏でた美しい声。だけど抑揚のない無機質な声。
セラが一歩退くと、ティルは刀を納めた。それと同時に、へたりとセラは座りこんだ。
自我もなく、クラストの人形のようになってしまったティル。元に戻るのかどうか、今はそれも知る術はないが、それでも――彼は動いている。喋っている。
床を掴んだ手の甲に、涙が零れる。セラはそれを拭いもせず肩を震わせた。
「生きてて、良かった……ティル」