16.不可侵の聖域
俺は姫野咲良。ラブリーな名前と異世界トリップ経験があるということ以外は、極めて普通の男子高校生である。
そして同居人のエドワードは、男前な名前と風貌、そして異世界の住人だったということ以外は、割と普通の女の子だ。
……最近、普通の定義ってなんなんだろうと真剣に考える。
エドワードがこっちの世界に来てから、半年が過ぎようとしている。
季節は夏に差し掛かり、夏休みのお蔭で俺はまた、一日のほとんどをエドワードと一緒に過ごせた。しかし何か進展があったかと言われると何もない。
相変わらず俺は彼女にからかわれたり、弄られたりしながら、出会った頃とさほど変わりない毎日を暮らしている。あの告白はいったいなんだったのか。異世界に行ってたことより、あの瞬間の方が夢だったような気がする今日この頃。
だけど、エドワードがこちらに来たばかりの頃の、ある日突然いなくなってしまうのではと、そんな不安はだいぶ薄くなっていた。
それから、俺の我儘で彼女に無理を強いているのではないかと、そんな自責の念もまた、同じように薄くなっていた。
というより、俺がそれを気にして塞ぎこめば、彼女を余計な心配をかけるだけだということに気付いた。
彼女を幸せにしなければいけないと、俺は少し気負い過ぎていた。平和な世界で生きてきた、たかだか十七歳のガキが、そんな大層な目標を持ったってできるわけがないというのに。
今俺ができるのは、焦らないでゆっくりと、エドワードと一緒に歩いていくことだけだ。
情けない結論だけど、ただ空回りしていた頃よりは、少し成長した気がする。
なによりも、そうして傍にいて、エドワードが隣で笑ってくれることが俺を支えてくれていた。
でも夏休みも終盤に差し掛かった八月の終わり。
もうすぐ学校も始まるというのに、ここに来て、エドワードは思い詰めたような顔をすることが増えていた。