外伝3 暁に消える 6


 しばらく、7人の間を沈黙が流れた――
 その間で、エレフォはその事実を知らなかったのは、少なくともこのメンバーの中では自分だけだったということを、それぞれの表情で知ることになった。
「……それではリューンの妹だというのは?」
 ややあってエレフォが口を開く。
「それは本当。でも騙しててごめん」
 リューンが小さく答える。2人が兄妹だというのは、その外見を見ても明らかだ。それほど2人はよく似ていた。叱られた子供のようにうなだれる彼を見て、だがエレフォは溜め息をつく。
「男が情けない顔するんじゃない。――本当だというなら騙していた訳ではないだろう。言う必要がなかっただけだ」
 そっけない言い草は、励ましというよりは事実を述べただけのようだった。だがその後のアルフェスに対する口調は、淡々とというより冷淡だ。
「――だが、どうする? いくらランドエバー騎士団が実力至上主義といっても、セルティの将軍では問題だろう。民の中には、カオスロードに命を奪われたものも、その遺族もいる」
「エレフォ!」
 ミルディンが、率直なエレフォの言葉に非難の声をあげるが、
「事実だ」
 ラルフィリエルは冷静だった。
 シレアがうなだれ、エスティが唇を噛む。リューンはただじっとラルフィリエルを見つめていた。
「とにかく、私は親衛隊を出る。――この国に迷惑はかけられない」
「出れば済む、という話ではないだろう。仮にも騎士とすれば、自分の判断で決めるな」
 あくまでエレフォの言葉には容赦がないが、道理だった。いたたまれない顔で、ラルフィリエルがミルディン、そしてアルフェスの方を見遣り、エレフォもまたアルフェスを見た。
「どうするつもりだ、アルフェス――いや、国王陛下」
 一同の視線を集め、さらには大仰な敬称を持ち出されてアルフェスが苦笑する。わざわざ彼女が言い換えたのは、それだけの責任とプレッシャーを負って答えを出せということだろう。だが、アルフェスに怯んだ様子は見られなかった。
 「どうするもこうするもない。彼女の意志に任せるさ。僕は国王かもしれないがアルフェスだし、彼女はカオスロードかもしれないが僕らの大事な友人だ」
 彼が発した言葉に呆れた顔をしたのは、何もエレフォだけではなかった。ラルフィリエルすら、それに近い感情を顔に出す。
(お姫様も、変だが……この騎士はもっと変なのではないか)
 率直に、そんなことを思う。それもまた、前々から感じていたことではあるが。
「問題が無ければいいんだろう? 答えを出すのは、もう少し後でも僕は遅くないと思う。逆に、決断を急ぐ必要があったのなら、それはもう遅すぎると思うし」
 1人冷静に、アルフェスが言葉を継ぐ。そして、エスティの間近まで歩み寄った。
「……なんだよ?」
 不審な顔をするエスティを、アルフェスが有無を言わさず部屋の外まで引っ張り出す。真紅の瞳に不満そうに見上げられて、彼は鋭い瞳を更に細めて囁いた。

「惚れた女くらい、救ってみろ」

 その挑発的な表情と物言いに――エスティは口の端を持ち上げた。いつもの彼の、勝気な笑み。
「……言うようになったじゃねぇか」
 アルフェスを押しのけて、ずんずんと足音荒く部屋の中に戻る。
 共に旅をしていた頃は、どこか自虐的な剣を振るっていた"ランドエバーの守護神"は、今や本当に守護神になっていた。
 (負けてられるかよ)
 火がついたように、勢いよく戻ってきたエスティを見て、リューンが隻眼をぱちくりとしばたたく。
「いくぞ、リューン」
「え? あ、うん……」
 よくわからないまま、とりあえず返事をするリューンだった。