悲しみは空に 思い出は教会に 1

 ひやりとした冬の初めの一陣の風――
 白い頬に寒さを感じ、ヨヨはうっすらと蒼い瞳を開いた。
 カーナ城の自室――自室といってもまだ馴染みは薄い。この部屋に居たことなど数える程しかないからだ。
 囚われ、監禁されていたグランベロスの殺風景な部屋の方が慣れている、というのも皮肉なものだ。
 ヨヨは起き上がると少し身震いした。寒い。
 豊富な長いブロンドを肩の後ろへ流しながらベッドを降りる。ノックの音が聞こえたのは、寝間着を脱ぎ捨てた丁度そのときだった。
「待って」
 慌ててドレスに――といっても飾り気のない、実に質素なものだが――袖を通し、
「どうぞ」
 椅子に腰掛け、落ち着いた声で応える。
「失礼します」
 カチャリ、とドアを開けて、姿を現したのは、短いブロンドの凛々しい青年。カーナ戦竜隊隊長にして、カーナ女王ヨヨの専属の護衛役――そして彼女の幼馴染でもある――ビュウだ。
「すみません。まだお休みになられてましたか?」
「ううん。丁度起きたところよ、気にしないで。――お早う、ビュウ」
「お早うございます」
 生真面目に頭を下げる彼を見、ヨヨは少し寂しそうに笑った。
「……ねぇ、ビュウ」
「はい?」
 言いかけて、だがビュウが返事をすると、彼女は何でもない、と頭を振った。
「それより何の御用かしら?」
「はい。報告致します。今朝のバハムートとの見回りも異常ありませんでした。マハールの復興も順調ですし、キャンベル、ダフィラ、ゴドランド……いずれも前にも増して発展しております。……グランベロスは……戦争反対運動が激化し、民主制になるとか」
「そう……。これでこのオレルスにも平和が訪れるのね」
 ヨヨは遠い目で窓の外を見つめた。空は、今日も穏やかに優しく広がっている。
 だがそれとは逆に、ビュウの内心は穏やかではなかった。
 本当は――、本当に報告すべきことは、そんなことではない。本当は。
(パルパレオス将軍――)
 胸中でその名を呟く。彼女が、ヨヨが愛する男の名前を。
(伝えるべきか? あのことを)
 何度も自問を繰り返す。――伝えるべきなのだろうか。

 彼の死を。
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