7.邂逅

 隊の指揮を執るために別行動を取ったアルフェスを、前線で再び見つけることは容易かった。彼の剣の一振りですれ違う者は倒れ伏し、ひとたび彼がスペルを紡げば一小隊が消し飛んだ。その戦いぶりは強い、凄いなどといった言葉でおよそ形容できるものではなく、アルフェスがその若さで今の地位を得ていることに、エスティは今更ながら合点が行った。
 エスティ自身も、戦場は何度も経験しているし、剣の自信だってそこそこある。今こうしてセルティ兵と互角以上に渡り合える実力もある。だが、それもアルフェスから見れば稚拙といってもいいだろう。
「エスティ」
 思わず魅入っていると、アルフェスがこちらに気付いて声をかけてきた。そのまま背中合わせに剣を振るう。
「やはり、セルティは正面から来たな。ここまで来たら小細工はないだろうと思っていたが、正解だった」
「……最初から読んでいて、この為に戦力を温存していたのか」
 さすがだな、とエスティが感嘆の声を上げる。アルフェスが総隊長である所以は、剣の腕のみによるものではなさそうだ。
「大体は押し止められただろう」
「ああ。まあ、城の方は大丈夫さ。万一何かあってもリューンがいる」
 全く心配していない、とでも言うような余裕の表情で、エスティ。だが、次の句を告げる頃には、その表情も声も一転した。
「あとはここで俺達が、"カオスロード"を食い止められるかどうかだ」
 その言葉に、アルフェスも表情を険しくした。
「だが、キリがないな。当の将軍は姿を見せやしない。ここは一気に道を拓くか?」
 こちらを仰ぎ見たエスティの目が危険な光を灯す。彼の意図が分かり、アルフェスもまた危険な笑みを浮かべた。
「……覚悟はいいのか?」
「してなきゃ言わないぜ」
「では、お手並み拝見といこうか!」
 その言葉と共に、アルフェスは刹那のうちに目の前の敵を薙ぎ、手をかざして叫んだ。
「"光よ"!!」
 それだけの動作とスペルで、彼を核として凄まじい閃光がほとばしり、敵を灼き払う。
 その光の強さにエスティは息を呑んだが、それで行動の遅れる彼ではない。これだけの攻撃でも、アルフェスは時間稼ぎのつもりでしかないのだ。だったら、稼いだ時間でやらねばならない。

『――"我が御名において、命ず"!!』

「!」
 次に息を呑むのは、アルフェスの番だった。それは、現代の精霊魔法のスペルとしては、意味を成さない言葉。
(契約による、精霊魔法ではない――!?)
 瞬間視線が交わったエスティが、にっと笑った。

『"天高く逆巻く焔よ、彼方へ進みて焼き尽くせ"!!』

 轟音と共に、燃え盛る炎が彼から真っ直ぐに伸びてゆく。
 その気配にむけて、彼は制御した。
「出てこないというなら、迎えにいってやるぜ?」
 嘯いたその時、なんの前触れもなく、彼が放った炎はふつ、と掻き消えた。不敵に笑ったエスティの頬に、冷や汗が伝う。瞳は少しも笑っていなかった。
 距離はあった。だが、はっきりと彼にはわかった。それほどの威圧。
「……来る!」
 アルフェスが鋭く叫ぶ。
 混沌が近づいてくる。
 エスティが駆ける。自らが起こした炎の跡を辿って。

 そして…………邂逅する。
 静かなる混沌と。