「……お早いお帰りでしたね」

 馬を降りるあたしとレオンを見て、ヴェイルさんがそんなことを言う。
 あたしもレオンもその理由は何も言わなかったけれど、あたし達の表情で、ヴェイルさんもなんとなく察しているんだろう。それ以上何も言うことはなかった。

 黙ってヴェイルさんがレオンから馬の手綱を取る。
 そのときに、初めてレオンが声をあげた。

「話がある、ヴェイル。あとで執務室へ来い。それから、今すぐユラハを呼べ」
「公との謁見は……」
「今行く。だがユラハが先だ。それから」

 レオンがそう言って言葉を切ったので、ヴェイルさんは足を止めて続きを待った。
 それからたっぷり間を持たせて、レオンが問いかけたのは。

「俺のことを、勝手で我儘で傲慢だと思うか?」
「思います」

 それは恐らく、ヴェイルさんが予想していたものの斜め上を行く質問だっただろうに、顔色ひとつ変えずにヴェイルさんが即答する。
 ほらみなさい。
 と思う反面、あたしが言ったことを気にしていたっぽいレオンに驚いた。
 哀れ即答されてしまい、レオンが考え込むように顎に手をあて、宙を睨む。その間にヴェイルさんは姿を消し、それからすぐにユラハさんが姿を現す。

「お呼びですか」
「ああ。お前は俺を、勝手で我儘で傲慢だと思うか?」
「その上尊大で横柄で利己的です」

 さっきより酷い言葉が返ってきた。
 鋭い目で睨まれながら、とげのある言葉を吐かれてもレオンはそれ自体には動じず、むう、とまた考え込んでしまう。

「用はそれだけですか」
「いや。しばらく我が姫の護衛を頼みたい」
暗殺者ネズミは?」
「あいつには別の仕事を頼みたくてな」
「私も暇ではないのですが」
「承知だが、王族の安全を守るのも騎士の仕事のうちだ。全てこなせないならお前を使う意味がない」

 そういうところが、勝手で我儘で傲慢で尊大で横柄で利己的だという自覚はあるのだろうか。ないんだろう。
 あたしは溜め息が零れたけれど、ユラハさんはとくにそれ以上反抗することはなく、は、と短く返事をした。

「では、俺は公務に戻る。今抱えている件が片付けばまた暇ができるから、そうしたらゆっくり話をしよう、マーガレット」

 そう言ってレオンはゆうゆうと城の奥に消えていく。
 ……あれだけ言ったのに、また違う名前。これじゃ話し合ったところで意味はない。大体話し合いなんてする気もないだろう。

 今度こそどっと疲れてしまった。泣きたい気分だったけど、さすがにここじゃ泣けない。

「部屋に戻るぞ」

 淡々としたユラハさんの言葉に従って、あたしは昨日と同じように彼の後をついて部屋への道を辿った。    



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