「帰っていたのか、レイシェ。知らなかった」

 目の前にもうひとつ太陽が現れたかのような眩しさをともなって、レオンがこちらへと歩いてくる。
 何も悪いことをしていないのに、ドキリと心臓が波打つのは――彼が口にしたことのせいだ。
 反射的にレイシェ様を見上げると、彼もあたしが何を言いたいのかすぐに解ったらしく、気まずそうに笑った。

「すみません、ラナ。騙すつもりはなかったのですが、ああでも言わなければ侍女も暗殺者(ヴェイル)も納得してくれなさそうでしたから」

 レイシェ様は、レオンには話を通してあると言っていたのに、レオンはレイシェ様がいたことを知らないと、今言った。
 それは、レイシェ様が嘘をついているということに他ならない。
 信じたくなかったけど、レイシェ様はあっさり自分の嘘を認めて頭を下げた。
 胸の奥がチクリと痛むのは、レイシェ様に嘘をつかれたせいなのか、それとも、絶対に騙されないと思っていたくせに、あっさりレイシェ様の言葉を信じていた自分が情けないせいか。

「ごめんね、レオン。君が花嫁を迎えに行ったと聞いたもので、気になってね」
「俺の姫に手を出すつもりではないだろうな?」
「まさか。君と事を構えるつもりはないよ」

 レオンの馬鹿な牽制に、レイシェ様が肩を竦めて苦笑する。
 それから彼は、あたしを引き渡すかのように、あたしを置いて数歩後ずさった。それを見て、すぐにレオンがあたしのすぐ傍まで来て腰を抱く。

「オリヴィア、彼はレイシェント=フラムフィールド、俺の叔父にあたるが、それ以上に俺の無二の親友だ」

 腰の手からなんとか逃れようとするあたしに、レオンがそんな風にレイシェ様のことを紹介する。
 叔父、と言っても歳は大してレオンと変わりなく思える。レオンのお父さんとは歳が離れた兄弟だったってことだろうか。
 でも、レオンがレイシェさんを親友だと紹介してくれて少しほっとした。レイシェさんの言葉は何もかも嘘だったってことじゃない。レオンと親友だって言っていたのは本当だったんだ。

「勝手に君の姫を連れだしてすまなかった、レオン。姫はお返しするよ」
「あ、レイシェ様……」

 あたしとレオンの横を通り過ぎて庭園を出て行くレイシェ様に、あたしは今日のお礼を言おうと呼びとめた。
 でもその瞬間、レイシェ様の声が頭の中で蘇る。

 ――知りたいなら、試してみますか?

 それは波紋のように広がって、何度も何度も再生される。
 それに気を取られているうちに、レイシェ様は庭園から姿を消していた。

「……レイシェと何を話した」
「え? べ、別に……、庭園を案内して貰っただけ。花について色々教えてもらったり……」
「花が好きか?」

 嘘は言っていない。というより本当にそれが目的だったし、レイシェ様と過ごした時間の大部分は、今あたしが言ったことで間違いない。  なのにどうしてかどもってしまう。
 不自然ではないかと焦るあたしをよそに、だけどレオンは全く関係ないことを聞いてきた。
 そんな問いは、とくにはぐらかしたり誤魔化したりする必要性も感じなくて、あたしは素直に頷く。

「え、ええ……」
「そうか。ならばついてこい」

 言うなりレオンが踵を返す。
 逆らったところでこの庭園に一人取り残されてもまた迷子になるだけだ。レイシェ様も行ってしまったので、仕方なくレオンの後について庭園を出る。
 その出入り口には、待ち構えていたようにヴェイルさんが控えていた。

「ヴェイル。馬を用意しろ。ルイーズと遠乗りをする」
「……は?」
「馬の用意をしろと言っている。何度も言わせるな」
「しかし、陛下。この後はヴァゼウム公との謁見が。その後も――」
「そんな奴より姫の方が大事だ。夕刻までには戻る、それまで待たせておけ」
「は、はあ……」

 よくわからないが、レオンはかなり無茶苦茶なことを言っている気がする。
 そのあたしの考えを肯定するように、ヴェイルさんは疲れたように返事をした。



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