城に入っても、いちいちあたしは驚きっぱなしだった。
 天井は見えないほど高いし、足元の絨毯には塵ひとつなく、上質な光沢を放っているし、柱という柱には細かい細工が装飾されていて、窓はまるで嵌まっていないかのように曇りひとつない。絵本でしか見たことのないシャンデリアがきらきら輝いていて、あたしは気が遠くなった。
 けれど急に下に下ろされて慌てて両足を踏ん張る。

「さて、まずは……」

 レオンはそんな独り言を言うと、向こうの回廊を歩いていくメイドさんに目を止めた。レオンがいることに気がつくと、彼女は慌てて足を止め、スカートをつまんで頭を下げる。
 そんな彼女に近づいて、レオンが一言二言告げると、彼女はわかりましたと答えてあたしに近づいてきた。

「こちらへどうぞ」

 メイドさんに促され、あたしは「ついに来た」という思いで心が重くなる。
 いまからあたしは、牢獄に連れていかれるのだ。絶望的な思いでレオンを見上げると、彼はにやにやしながらあたしを見ていた。
 何か含んだ笑いは、やっぱりあたしをからかっていたんだと思わせるものだった。

 そうしてレオンと別れ、メイドさんについていくと、壁も床も、大理石でできた少し肌寒い部屋に入れられた。
 ここが牢獄なのだろうかと思っていると、突然メイドさんがあたしの服を脱がしにかかる。
「え!? や、やめて下さい!」
 咄嗟に抵抗を試みると、メイドさんは驚いたようにびく、と手を止めた。
「す、すみません。でもお召物を脱いで頂かないと、沐浴の準備ができませんので……」
 困ったようにぼそぼそと呟く彼女を見て、あたしはぽかんとした。……もくよく? それって……お風呂ってこと?
 絶望に呆然としていたあたしはそこで初めて我に返ってメイドさんを見た。
 都にはきらきらの人しかいないと思っていたんだけどそうでもなく……と言ったら彼女に失礼かもしれないけど、あたしと同じ茶髪で、歳も同じくらいで、素朴な可愛らしさを持った子だ。

「ご、ごめんなさい」

 彼女が困り果てたようにおろおろするので、なんだか悪いことをした気になって謝ると、彼女はほっとしたようにあたしの服を脱がすことを再開した。
 それから、さらに二人のメイドさんが現れ、あたしはあれよあれよと言う間に服を脱がされて、髪と体を良い匂いのする石鹸で洗われて、冗談かというほど広いお風呂に漬けられて、そして丁寧に体を拭かれ、髪に櫛を通された。
 こんなことを人にやってもらうなんて当然ながら初めての経験で、あたしは途中なんども自分でやると言ったのだけれど、陛下の言い付けですので困りますと言われて結局されるがままになった。

 そして気がついたときには、髪を結いあげられ、化粧を施され、きらきら輝く銀のドレスを着せられて、レオンの前に出されていた。

「見違えたぞ、我が姫。綺麗だ。では、食事にしようか」

 何がなんだかわからないまま、レオンにエスコートされて真っ白なテーブルクロスのかけられたテーブルに連れてこられる。
 そして、傍に寄ってくるお付きの人を片手で払って、レオンが豪華な椅子を引いた。

「さあどうぞ、我が姫」

 また、気が遠くなる。どんな大貴族だって、王様からこんな扱いなど受けられないだろう。
 思考が真っ白になって、何も考えられないままあたしが椅子に着くと、レオンはその向かいに腰を下ろした。

 目の前には、大きなお皿と、ナイフやフォークがいくつも並んでいる。こんなにたくさんナイフやフォークがあるのに、テーブルはこんなに大きいのに、席についていつのはあたしとレオンだけだ。
 レオンが席に付くと同時に、給仕のメイドがスープを運んでくる。

「ねっ、ねぇ……レオ……エルレオン陛下」
「レオンと呼べ」
「レ……オン……」

 この空気の中で呼び捨てろだなんて拷問だ。あたしの声は掠れて消えた。
 けどすぐに、レオンにはあたしが何を言いたいか分かったらしい。

「マナーは気にしなくていい。そのうち覚えてもらうことにはなるけどね」
「で……でも……」
「とりあえず俺と同じように食べておけばいいだろう」

 そう言われ、しかたなくあたしはレオンを凝視して、同じように食べ始めた。
 思わずナプキンで口を拭うのまで真似をすると、メイドさんがくすっと笑ったのが見えてしまった。耳まで熱くなった。

 驚いたことに、並べられていたナイフ達は、全部一人で使うものだった。
 一回の食事でこんなに使っていたら、洗いものが大変じゃないのかしら。
 お城って不思議なところだ……。



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